政府の放送法第4条撤廃方針に抗議し、安倍政権による

 

 「放送制度改革方針」の撤回を求める

 

2018年4月13日

 

放送を語る会

 

 

 

 すでに報じられているように、安倍政権による「放送制度改革方針」なるものが明らかになった。政府内文書によれば、その内容は(1)通信と放送で異なる規制・制度の1本化(放送のみに課されている放送法4条などの規制の撤廃など)、(2)放送のソフト・ハード分離の徹底、(3)NHKについては規制を維持し、ネット同時配信などを通じ公共放送から公共メディアへ、という3点を基本にしている。

 

この方針の中で、NHKを除く放送について、放送法の第4条や、番組調和原則、マスメディア集中排除原則など、放送特有の規制を撤廃するという方針はほとんど暴挙というべきものであって、到底容認できない。

 

その理由は次の通りである。

 

 

 

1)健全な民主主主義の発達のための放送の役割が破壊される

 

撤廃するとされる放送法第4条は、一般に放送準則と言われるもので、「政治的に公平で

 

あること」「事実をまげない」「意見が対立する問題は多角的に論点を明らかにする」などの重要な規定がある。もしこの条文を撤廃したらどうなるか。

 

放送界の第三者機関であるBPOは、東京MXテレビの番組「ニュース女子」の沖縄基地反対運動に関する放送に重大な放送倫理違反があったとする「意見」を決定した。(20171214日)。同番組では「反対する沖縄の住民はテロリスト」「参加者に2万円の日当が支給されている」などのデマ宣伝が公然と行なわれた。

 

これらは「事実をまげた」放送であり、放送法第4条が撤廃されれば、このたぐいの番組が制約なく放送できることになる。ヘイトスピーチまがいの番組も放送可能になるだろう。

 

現行放送法は、法の目的を「放送が健全な民主主義の発達に資するため」としている。

 

政治・社会について、できるだけ多様で正確な情報に接することは、主権者の政治判断にとって欠かせない。もし、ウソに満ち、特定の勢力を誹謗・中傷するような放送が氾濫する事態になれば、本来必要な情報は片隅に追いやられ、視聴者市民の「知る権利」は十分に満たされない。

 

政府「改革方針」はこのような状況を招く危険がある。これは民主主義にとって重大な脅威と言わなければならない。

 

 

 

2)放送とネットが同一視され、放送に必要な倫理規範が破壊される

 

 これまで、政権が第4条を理由に圧力を加えたことがあった。そのような干渉には断固反対するが、だからといって、現在の日本政治の状況で第4条が不要であるとは言えない。

 

割り当てられた電波を使う放送では、たとえ放送内容に批判があっても、その電波帯を使って視聴者は対抗することができない。放送事業者は、強大で影響力が大きい放送を独占的に行っているのである。そのため、放送法は、放送事業者が守るべき倫理として第4条を設けた。政府方針は、こうした放送特有の性格をネットと放送を同一視することで無視している。

 

第4条は、視聴者が放送を批判するときの重要なよりどころであり、放送局従業員にとっても、理不尽な政権の圧力や幹部の不当な命令、指示に対抗する武器になりうるものである。

 

この規定を撤廃すれば、放送局に対する批判は効果を大きくそがれ、視聴者の批判によって放送局が努力するという営みは阻害されるだろう。こうした事態は、放送従事者の倫理的退廃を招く恐れがある。

 

 

 

3)政権のプロパガンダ(宣伝)放送が優位を占める危険がある

 

 今回の政府方針は、安倍政権が改憲の動きを加速させる時期に提起されている。このことに注意する必要がある。

 

 放送法の準則が廃止されれば、政権の意向を宣伝する政権寄りの番組の「自由市場」の出現が現実のものとなるだろう。現在の閣僚の大部分は右翼組織「日本会議」のメンバーであるが、この「日本会議」制作・提供のような番組も幅を利かせることになりかねない。

 

 このような「改革」が、依然として放送局の許認可の権限を持つ政府によって推進されることになる。プロパガンダ放送を拒否する放送局は、強い権限をもつ政権と、財力を持つ右翼団体の圧力を受ける恐れがある。

 

 「公共放送」NHKについては、放送法の規制を維持するというが、放送がもつ公共的な役割の上で、NHKと民放を区別する合理的な理由はない。

 

わが国の放送の平均視聴シェアは、NHKが15パーセントに満たないという調査がある(NHK放送文化研究所2010年)。古いデータであるが、この比率が大きく変動しているとは思えない。わが国でなお大きな位置を占めている民放で、政権の宣伝放送がまかり通れば、これもまた民主主義にとって重大な危機となる。

 

 

 

政府方針は、産業振興の意識に貫かれ、視聴者市民の知る権利や、ジャーナリズムの発展のための改革、という視点はまったく見られない。

 

政府方針のロードマップのステップ2には、「この改革が実現した場合、放送(NHKを除く)は基本的に不要に」と書かれている。これはNHKと民放の二元体制で長年培われた放送文化を破壊するものであり、膨大な数で普及しているテレビ受信機はNHKだけを受信する機器にならざるを得ない。このような「改革」が、コンテンツ産業の国際競争力を高めるなどの目的で計画されているのである。

 

放送制度の「改革」を意図するなら、政府が放送局を管理・監督するという、先進国では見られない後進的な制度を改革し、政府から独立した規制機関が放送行政を担う制度を目指すべきである。

 

当会は、この本来の改革の方向を強調するとともに、今回の政府「改革」方針に対し、多くの市民団体、個人が反対の声をあげ、撤回させる闘いに立ち上がるよう期待するものである。