3月7日 平林 光明(大阪)


NHK
総合 「特集ドラマ・あなたのそばで明日が笑う」  放送 
36日(土)午後7時半~845

                                      
東日本大震災から今年で10年。311を前に多くの番組が組まれている。震災を風化させないために大事なことで、東北に思い入れがある私も出来るだけ目を通そうと思い、皮切りに標題のドラマを見た。
 宮城県の石巻市が舞台で、津波で本屋と、経営していた夫を亡くした女性が主人公。夫は必ず帰ってくると信じて、子供にも過去の思い出になるからと、かたくなに父のことは話さない。その主人公が10年を前に、夫が帰ってきやすいようにと本屋の再建に取り組む。私の好きな関西テレビの連続ドラマ「監察医・朝顔」にも、主人公の父が、母が流されたと思われる沼に毎週末東京から出かけ、定年後は現地に住み着いて沼をさらう姿が、もう一つの縦糸として描かれている。行方不明のままの人の近親者に、簡単に遺族として接してはいけないことが改めて胸に刻まれた。

ドラマは石巻に移住していた建築士に、被災者の心をぶつけながらそっくりの本屋を復元させる。このやりとりの中で、完成後は熊本の被災地のリノベーションに、向かうつもりの建築士が、石巻に永住し女性を支えることを決意する。これに対して主人公が「近くにいることが支えることではない。遠くにいても寄り添うことが出来る」と話し、熊本の支援に行ってほしいと訴える言葉がこのドラマを象徴していた。津波のシーンも無く、心の動きの機微を丁寧に描いた温かいドラマだった。同時に海岸沿いの地域の復旧が、整地し嵩上げされた更地のままの状態に、被災数年後に見た復旧工事の状況から、何歩も前に進んでいない現状に心が痛んだ。

 続きで午後9時からのNHKスペシャル「津波避難」を見た。詳細は省くがいくつかの地域の住民が、津波にどう対応したのか、そして生死を分けたのかを丹念な聞き取りで解明した力作だった。ドラマに出た石巻市と助かった住民が逃げた日和山も描かれていた。1つだけ感想を言わしていただければ、被災地以外日本中が知っていた「大津波警報」が当の住民に伝わっていない盲点が悔やまれる。そして津波さえなかったら、原発事故さえなかったら、建物被害も死傷者も、「阪神淡路」より少なかったのではと思うと、この震災の特異性が心に沁みた。