●NHKスペシャル「船乗りたちの戦争~海に消えた6万人の命」
 総合テレビ8月13日午後10時放送

先の戦争で動員された、海軍兵力以外の民間の貨物船や旅客船が、7240隻も沈没し、6万人を超える船乗りが亡くなったという記録がある。番組は沈没場所が特定できる船の位置を、克明に赤印で地図に落としていったが、最後には日本近海から南太平洋まで、真っ赤に埋め尽くされてしまった。戦況が悪化していった最後の1年だけで、それまでの2年の倍近くの船が沈んでいる。特に許せないのは、徴兵年齢にも達していない10代半ばの少年漁船員(漁師)が、軍属(民間人)として、木造船で輸送や哨戒など、軍と同じ任務をさせられていたことである。その多くの少年が海の藻屑となったのはいうまもない。民間船の犠牲を、丹念に記録した労作だったが、それだけに先の戦争の記録で終わってしまったのが残念である。この間取り上げられた色々な番組が、軍内部の常軌を逸した無責任な事象を描いたのに対して、今回の民間人の犠牲を告発したのは、先の戦争の特異な現象でなく、現在にも通じるものである。現に戦後起こった「朝鮮戦争」や「湾岸戦争」では、日本の武力参加は無かったことになっているが、「朝鮮戦争」では米軍に8千人の船員らが動員され、56人の死者を出した記録がある。「湾岸戦争」でも輸送や掃海に、民間人が動員されたと言われている。先年強引に作られた安保法制(戦争法)でも、緊急時には陸海空の輸送手段は、政府の管轄下に置かれると読める条項がある。番組が取り上げたテーマは、戦争にはいつもついて回る事態として銘記したい。 (M・H、78歳)