nhkスペシャル「祖父が見た戦場」 8月11日午後9:00~

 フィリピンのルソン島は、日本軍の犠牲者が20万人といわれる、先の大戦の最大の激戦地である。番組はNHKの小野文恵アナウンサーが、ルソン島で戦死した祖父の足跡を、下士官が残した記録をもとに、母と2人で辿るというもので、初めはナレーターかと思った小野アナが、当事者として登場する意表を突くものだった。届いた死亡の公告が2種類あることで、いつ・どこで亡くなったのか、真実を知りたいというのが出発点である。米国立公文書館で保存されている、各地点ごとに日本兵の死者数をまとめた詳細な記録が、経路の裏付けになる。敗走する日本軍の悲惨な様子を、数少ない生存者の証言で描きながら、想定される死亡地点に墓標を立て、2人で「故郷」を歌う姿がやるせなかった。本土決戦への時間稼ぎで、撤退も許されなかった部隊の、強制的な集団自決や、「兵は消耗品」と吐き捨てた生存者の言葉に、戦争の実態が表われていた。死者の映像は何度か出てきたが、激しい戦闘シーンがない、どちらかと言えば淡々とした描き方だったが、戦争の残酷さは十分伝わった。この戦争に巻き込まれて亡くなったフィリピン人も10万人と言われ、「当時の日本人は敵」と答えた現地の人の言葉に、「太平洋戦争は解放戦争」とこじつける靖国派の宣伝の虚偽が浮き彫りにされていた。
(平林 光明)